1/16雑記

『桃枝の更年期障害の症状が一番悪かったとき、夫が何故そんなにまでして看病してくれるのか、実はよくわかっていなかった。それが今やっと少しわかった気がした。

配偶者の死の影は、親のそれとはまったくの別物だった。自分の土台を容赦なく崩されるような衝撃だった。

ひぐらしがわんわんと鳴く下で、額から流れる汗が目に入って痛いほど沁みても、桃枝はそのまま立ちすくんでいた。』

 

『前にそよかから、お洒落な人は狭量だと言われたことを思い出した。

お洒落とは人との差異だから、それはそうだと思った。そういえば前の恋人は物凄いグルメで、だから狭量だった。

入った店で味の良くない料理を出されると別人のように口汚く罵った。

何かに拘われば拘わるほど、人は心が狭くなっていく。

幸せに拘われば拘わるほど、人は寛容さを失っていく。』

 

 

山本文緒 『自転しながら公転する』 新潮社 2020.9

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1/5雑記

『都はまわりの人に細かく気を配って、思いやりをもって生きているつもりだった。

しかしいざ家族が病気になると、自分の時間を差し出して面倒をみることが本当は嫌で仕方なかった。

肉親にたいしてでもそうなのだから、赤の他人に無償で何かすることなど考えたこともない。貫一とくらべると自分は薄情だ。奥歯に水が染みるように、気持ちの奥がきしんだ。』

 

『扉を閉めて母親がいなくなると、都は再びベットに仰向けになり、ではそのとき自分はどんな服を着ればいいのかと考えた。他に考えるとはあるはずだろうについ癖で考えてしまう。

いや、と都は閉じかけていた瞼を開ける。それは自分にとってやはり一番大事なことなんじゃないかと考え直した。

何を期待されていて、それにどう応えるか。何を主張したいか、主張を声高にしたいのか匂わせる程度にしたいのか。そういうことを表現するのが、都にとっての「着る」

ということだ。

貫一はきっと、着る服のことなんかで悩んだりはしないだろうが、彼が持っている数少ない服の中で、くたびれていないぱりっとしたシャツを選ぶだろう。考えて着ることは配慮と主張のバランスだ。』

 

 

山本文緒 『自転しながら公転する』 新潮社 2020.9

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1/4雑記

『「人間はじぶんの時間をどうするかは、じぶんできめなくてはならないからだよ。

だから時間はぬすまれないように守ることだって、じぶんでやらなくてはならない。

わたしにできることは、時間をわけてやることなんだ。」

モモは広間を見わたしてから、こうたずねました。

「たくさん時間があるのは、そのためなのね?ぜんぶの人間にひとつづつあるんでしょう?」

「そうじゃないんだよ、モモ。この時計はわたしが趣味であつめただけなのだ。

時計というのはね、人間ひとりひとりの胸のなかにあるものを、きわめて不完全ながらもまねて象ったものなのだ。

光を見るためには目があり、音を聞くためには耳があるのとおなじに、人間には時間を感じとるために心というものがある。そして、もしその心が時間を感じとらないようなときには、その時間はないものもおなじだ。」』 

ー12章 モモ、時間の国につく

 

 

『こうして子どもたちは、ほかのあることをわすれてゆきました。

ほかのあること、つまりそれは、たのしいと思うこと、むちゅうになること、

夢見ることです。

しだいしだいに子どもたちは、小さな時間貯蓄家といった顔つきになってきました。

やれと命じられたことを、いやいやながら、おもしろくもなさそうに、ふくれっつらでやります。

そしてじぶんたちのすきなようにしていいと言われると、こんどはなにをしたらいいか、ぜんぜんわからないのです。』

ー13章 むこうでは一日、ここでは一年

 

www.youtube.com

ちょうどタイムリーにユーチューブでオリラジ中田敦彦が解説していたので読んだ後に見るとより理解できる。※解説は45分×2本。ながっ。

 

動画コメント

時間=命だと認識できている人は少ないと思う。

時間=心が満たされている、心底幸せであると実感している瞬間。に「気づける」

ようにならないといけないですね。

過去を振り返っても、何も満たされない「忙しい」は機械のようなもの。

 

ミヒャエル・エンデ(著)、大島かおり(翻訳) 『モモ』

  岩波少年文庫 2005.6(発行1973)

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12/27雑記

『時間をはかるにはカレンダーや時間がありますが、はかってみたところであまり意味はありません。

というのは、だれでも知っているとおり、その時間にどんなことがあったかによって、わずか一時間でも永遠の長さに感じられることもあれば、ほんの一瞬と思えることもあるからです。

なぜなら、時間とは、生きるということ、そのものだからです。そして人のいのちは心を住みかとしているからです。』

 

『時間をケチケチすることで、ほんとうはぜんぜんべつのなにかをケチケチしているしているということには、だれひとり気がついていないようでした。

じぶんたちの生活が日ごとにまずしくなり、日ごとに画一的になり、日ごとに冷たくなっていることを、だれひとりみとめようとはしませんでした。

でも、それをはっきり感じはじめていたのは、子どもたちでした。というのは、子どもにかまってくれる時間のあるおとなが、もうひとりもいなくなってしまったからです。

けれど人間とは、生きるということ、そのものなのです。そして人のいのちは心を住みかとしているのです。

人間が時間を節約すればするほど、生活はやせほそっていくのです。』

 

 

ミヒャエル・エンデ(著)、大島かおり(翻訳) 『モモ』

6章インチキで人をまるめこむ計算  岩波書店 2005.6(発行1973)

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12/18雑記

『本は、幼いころの私にとって、宇宙みたいなものだった。(中略)

子ども心ながらに感じていた、この世界への不安、生きていくことへの揺らぎのようなものが、本の中にある一行によってぴったりと書き表されているようなとき、

私は、自分ひとりではないものだと思えた。P.240』

 

『「日記をつけると文章を書くのが好きになるんだよ」夏休みの読書感想文がどうにもこうにも書けなかった小学四年生の私にそう教えてくれたのは、誰だっただろうか。私はその言葉を鵜呑みにし、小学四年生のころから毎日、日記を書くようになっていた。(中略) 

何も起こらない毎日。もちろん、すぐに書くことがなくなる。だけど、変なところでA型の血が疼く私は【一日、方眼ノート一ページ】と決めたことをどうしてもっ破ることができなかった。なんでもいい。何かを見つけて書く。どうにかして。一日一ページを埋める。それを続けた三年後、私は、読書感想文で賞をもらった。特選だった。

(中略)

当時の国語の先生は言った。

「自分の文章にちょっと酔ってない?」

あ、酔ってる。私はそのとき、はっきりと自覚した。そして、ぐらぐらと全身を揺らすようにしてその酔いを楽しんでいる自分を、とても誇らしく思ったのだ。酔えるくらい、好きなものに出会ってしまった。それがとても嬉しかった。P.242』

 

地獄の500キロバイク。東京新宿区から京都までの自転車旅、これはすごい。

自身の就職活動について晒す。就活は摩訶不思議アドベンチャー

個人面接となると、集団面接と違い、ごまかしようがなくなってくる。(中略)

いま冷静になって考えてみると、知らないおじさんと密室で三十分間二人っきり、自分のいいところをアピールするだなんて、一体なんじゃそりゃといった感じである。

 

朝井リョウ 『時をかけるゆとり』文藝春秋 2014.12

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12/7雑記

 

『辞めるか辞めないかという重い決断の時こそ、私は「軽さ」を重んじます。

「面白いか面白くないか」「笑ってもらえるか笑ってもらえないか」「エロいかエロくないか」「美しいか、そうではないか」を重んじる。どちらか迷ったら、そのくらいのシンプルさに立ち返る方がよいと考えています。

大切なのは己で定めた基準、ただひとつ。

勝手を言う人様の基準ではないのです。』

 

F 『20代で得た知見』24.継続しない選択 KADOKAWA 2020.9

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11/30雑記

 

『ショーウインドウに明るんだ空が映っている。

そのさなかを、すうっと横切る鳥の一群。

あっと固唾をのんで振り向き、天羽さんは空を仰いだ。雁の群れだった。

小さな影が見えなくなるまで見送ったあと、再びショーウインドウを見た天羽さんは愕然とした。

雁の姿が一瞬かすめたウインドウの景色と、夜を徹して作り上げたディスプレイ。

まったく違ったものに見えたのだ。』

 

 

原田マハ『さいはての彼女』冬空のクレーン 角川文庫 2008.9

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